新刊が出版されると必ずキャッチコピーがついてきます。作家本人が考える場合も稀にありますが、大概は専属のコピーライターや編集者が考えています。主に帯のフレーズや宣伝用のPOPに使われます。例えばよく目にするのが「最高傑作」「新境地」「号泣必至」など。とにかく毎日200点近い新刊が出版されるため、埋もれないように各社それぞれ工夫を凝らして販売促進を行っています。奇抜な表紙のデザインで目立たせる方法もありますが、やはり本ですから作家や中身を紹介するコピーが一番の効果があります。奥田英郎の新刊「家日和」にもよく使われる「今年のオンリーワン」いうコピーがあります。今年はこの1冊しか書きませんということですが、人気作家にしか使えない殺し文句といえます。
直木賞作家の奥田英朗は「邪悪」といったミステリー小説から、代表作の「空中ブランコ」「インザプール」「町長選挙」といった伊良部医師が登場するコメディ小説まで、新刊が出るたびに変幻自在な才能を示して読者を驚かせてくれる作家の一人です。
新刊「家日和」は6つの短編集となっています。30代後半から40台前半の6組の夫婦小説と言い換えることもできます。子供がいなかったり、いたりしますが、このストーリーの中心には据えられてはいません。子育てがひと段落して、本来の自分自身を取り戻す夫や妻の姿を、奥田氏得意のキャラクター造形と心理描写で楽しませてくれます。女性心理を描いて絶賛された爽快オフィス小説「ガール」のように、今回も登場する6人の妻たちが大変魅力にあふれ、存在が際立っています。
「サニーディ」では42歳の主婦山本紀子はあるきっかけからネットオークションをはじめます。予想よりも高値で売れる快感と得た小遣いで食事にエステに贅沢三昧。やがてネットオークション依存症となり、夫のビンテージギターやオーディオにまで手をだしてしまいます。また「ここが青山」では夫の会社が倒産して、再び働きにでることになる妻・湯村厚子。夫は再就職先を探さず、炊事洗濯育児。これまでとはまったく生活が逆転してしまうのだが、これがお互いにまたしっくりくるところが妙に笑ってしまいます。「グレープフルーツモンスター」にいたっては宛先パソコン入力の内職をする39歳の主婦佐藤弘子が、若い担当者に抱く中年の妄想はまさに奥田ワールドの真骨頂といえます。 奥田氏本人のことではないかと思ってしまう「妻と玄米御飯」に登場する42歳の小説家の大塚康夫。最近、有名な文学賞を受賞し、生活が少しづつよくなり、ヨガ、ロハスにはまりセレブ化する妻。それに付き合わされて一向に進まない原稿書き。そこで皮肉にもそんなロハスにはまる妻を題材に小説を書きはじめることになります。それぞれの妻たちの生きる強さと同時にしたたかさやしぶとさが読みとれます。現代の夫婦間に起こる様々な問題を6組の夫婦を通じてコミカルに描いた作品。独身が読んでも充分楽しめますし、ぜひとも夫婦で読んでもらいたい1冊です。
2015年 6月
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