「東京タワー」の映画化でさすがに泣く小説ブームは終わったと思っていました。ところが私をこれまで何度も泣かせてきた重松清が3年ぶりの長編小説「カシオペアの丘で(上)(下)」を出版しました。「ビタミンF」や「疾走」などこれまでの重松作品を読んで幾度も目頭が熱くなりました。代表作「流星ワゴン」「その日のまえに」にいたっては号泣しました。毎回もう泣くまいと決めて読みますが、読む前から、重松作品というだけで半分泣いているようなもので、今回は諦めてティッシュを用意して読み始めました。
舞台はかつて炭鉱で栄えた北海道の街・北都。主人公はそこで育った幼馴染の4人組、俊介、敏彦、美智子、雄司。幼い頃、北都の丘で、星空を見に行った4人が願ったのが遊園地を作ることでした。20年後、敏彦は夢を実現し、カシオペアの丘と名づけた遊園地の園長になり、車いすに乗って、美智子を妻に幸せに暮らしていました。ある日、俊介からメールが届きます。そこには「がん宣告と余命わずか」の文字。俊介は、炭鉱を営んで巨万の富を手にした倉田財閥の先代・千太郎の孫にあたり、炭鉱の事故から、倉田家と決別して、連絡が途絶えていました。俊介からの突然の知らせに驚く2人には、それぞれ俊介と過去にわだかまりを持っていました。一方、東京へ出た雄司はテレビの製作会社のディレクターになり、別の事件の取材でカシオペアの丘で2人と出会います。同じ郷里から出発し、それぞれの別の人生を歩んで
いた4人が俊介の病で再びカシオペアの丘に終結します。そこには歳を重ね、さまざまな感情を抱え、生きてきた人間の葛藤と、病気や事故、事件によって傷ついた人間の再生する姿が感動的に描かれています。
とくに俊介が息子の哲生に、ガンであることを告げる場面は涙なくして読めません。北の壮大な大地のなかで、一組の親子が交わす命の会話。命の尊さと親子の愛情にこみ上げるものがありました。重松清の巧みな構成と語り口で最高の場面となっています。
重松清がこれまでの小説で扱った親子、夫婦、家族、友情といったテーマを、すべて盛り込んだ集大成。命が軽くなっている現代に「生と死」を真摯に問いかけた最高傑作。私はまたしても重松清の小説で泣かされました。決して泣き虫ではありませんけど。
「カシオペアの丘で」上下 講談社文庫
2016年 1月
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