村上春樹チルドレンと呼ばれている作家がいます。村上春樹の作品に影響を受けて育った世代の作家で表現方法や語り口がどことなくハルキ節で、吉田修一、本多孝好、古川日出男など現在、日本文学をリードする若手作家が該当します。その中でも最もハルキイズムを体得した作家が「となり町戦争」で衝撃デビューを飾った三崎亜記です。新作長編「失われた町」は、世界でも絶賛されている村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーグランド」を連想させます。
デビュー作が評判を呼べば呼ぶほど、次作への期待やプレッシャーが高まるもの。三崎のデビュー作「となり町戦争」は異例の10万部を超えるロングヒットなっていることから見ても、その期待値は当然高まっていました。新人作家の多くはそのプレッシャーに押すつぶされ、デビュー作を超える作品を出せずにやがて消えてしまいます。いってみればデビュー後の2、3作の出来栄えでその作家の運命が決まるのです。三崎亜記はその重圧を見事に跳ねのけました。跳ねのけたどころか、この作家はとんでもない才能の持つ主で、将来、文学界に大きな功績を残すに違いないと確信しました。ぜひとも直木賞を獲ってもらいたいです。
新作「失われた町」は前作同様、やはり『町』が重要なキーワードとして表現されています。「となり町戦争」ではある日、となり町との戦争の知らせが届き、まったく変わらない日常の中で着実に進む見えない戦争の恐ろしさを扱っていましたが、今度は町そのものが消滅してしまいます。しかも住民が消滅した後には、文書などで町の名前が残っていると余滅でさらなる町の消滅を引き起こしてしまいます。そこで管理員が町の完全なる消滅のため、住人のいなくなった危険な町に潜入します。その消滅で生き残った人間とその消滅を食い止めに関わる人間との時を越えたストーリー。
町の住民の日常に喪失と虚無感を与え続ける日本文学の新旗手による傑作をこの機会にぜひ読んでいただきたいです。
DOOS 2007年1月号
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