DOOS連載記事

小説好きは映画好き。小説と映画は切っても切り離せないと思います。その象徴ともいえる小説を読みました。金城一紀の最新刊「映画編」(集英社)です。
『太陽がいっぱい』『ドラゴン怒りの鉄拳』『恋のためらい/フランキーとジョニー もしくはトゥルーロマンス』『ペイルライダー』『愛の泉』という古今東西の映画をモチーフにした5つからなる中篇の小説集です。金城一紀は直木賞受賞作「GO」をはじめ、ゾンビシリーズなどこれまで多くの傑作を生み出してきました。映画についても造詣が深く、映画監督兼作家の青山真治や中原昌也、芥川作家の阿部和重と並び、映画好きの若手作家の1人です。映画を観て育ったストリーテラー作家による小説は映画以上に、あなたを物語の世界に引き込むことでしょう。特にこの作品にはタイトルの映画のほかに『がんばれベアーズ』『大脱走』『ローマの休日』など95作品を超える映画が登場します。初めて映画館で見た映画。恋人といった思い出の映画。涙がこぼれた感動の映画。映画を観て共感し、語り合ったあの頃の、それぞれの映画に対する強い思い入れがあるように、この5編は小説という形で物語を奏でながら、哀しくも力強い友情物語になり、純粋で無垢な恋愛小説になり、コミカルなハードボイルドになっています。映画によって出会い繋がった人々の絆を描く、まるで劇場で映画を観たかのような、興奮と感動を味わうことができます。
1本の映画や1冊の小説が日常の中に小さな変化をもたらしてくれることだって、人生を大きく変えてくれることだってあります。物語が、実は人生にとってかけがえのないとても大切なものを教えてくれます。そんな映画と小説にこれからも出会いたいと思える、やさしくさわやかなで今すぐ映画が観たくなる金城一紀最高傑作。私も読後、「ドラゴン怒りの鉄拳」を押入れから引っ張り出しました。

映画編 新潮文庫

 いきなりですが、問題です。次に挙げる作家の性別を答えてください。①北村薫、②高村薫、③恩田陸、④桜庭一樹。最初の3問は簡単ですが、桜庭一樹はどちらかわかりますか。正解は女性です。作家という職業は、素顔を出すことが稀であるため、性別がわからないことがよくあります。この桜庭一樹も最初は男性だと思っていました。もともとライトノベルで活躍された作家で、前作の「赤朽葉家の伝説」が直木賞候補になり人気急上昇。これまで「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」「少女に向かない職業」「少女七竈と七人の可愛そうな大人」と、名前の男らしさとは反対に、一貫して少女をモチーフとした作品を多く書いています。

新刊「青年のための読書クラブ」の登場人物も聖マリアナ学園という名門のお嬢様学校に通う少女たち。1919年から2019年まで100年続く歴史ある学園には、お金持ちでスター性があり、華やかな生徒が集まる演劇部、様々な行事を司る成績優秀な生徒会、そして容姿や育ちに劣等感をもつ少女たちが集まる読書クラブがありました。この物語は、学園創立に隠された真実や、学園史上抹消された数々の珍事件などが、名もない女生徒たちによって記録され続けた秘密の「クラブ誌」を読み進めていく形で展開していきます。自分の容姿に大変なコンプレックスを持っている学園一の才媛・妹尾アザミ。学園を席巻した伝説のロックスター・山口十五夜。最後の読書クラブ員の五月雨永遠。強烈なキャラクターたちが巻き起こした事件が、読書クラブだけあって文学作品と深く絡み合うところに作者の巧みさが出ていて、文学好きにはたまらない秀作となっています。
 ライトノベルの持つオタク的要素と少女コミックの持つストーリー性に、宝塚歌劇のような華麗さ、優雅さを融合した禁断の新文学誕生。10~20代でケータイ小説を卒業した若い女性が支持する桜庭一樹の作品だが、性別を超えて幅広い層からも支持される可能性と才能を感じる作品でした。


青年のための読書クラブ 新潮文庫

 「東京タワー」の映画化でさすがに泣く小説ブームは終わったと思っていました。ところが私をこれまで何度も泣かせてきた重松清が3年ぶりの長編小説「カシオペアの丘で(上)(下)」を出版しました。「ビタミンF」や「疾走」などこれまでの重松作品を読んで幾度も目頭が熱くなりました。代表作「流星ワゴン」「その日のまえに」にいたっては号泣しました。毎回もう泣くまいと決めて読みますが、読む前から、重松作品というだけで半分泣いているようなもので、今回は諦めてティッシュを用意して読み始めました。
 舞台はかつて炭鉱で栄えた北海道の街・北都。主人公はそこで育った幼馴染の4人組、俊介、敏彦、美智子、雄司。幼い頃、北都の丘で、星空を見に行った4人が願ったのが遊園地を作ることでした。20年後、敏彦は夢を実現し、カシオペアの丘と名づけた遊園地の園長になり、車いすに乗って、美智子を妻に幸せに暮らしていました。ある日、俊介からメールが届きます。そこには「がん宣告と余命わずか」の文字。俊介は、炭鉱を営んで巨万の富を手にした倉田財閥の先代・千太郎の孫にあたり、炭鉱の事故から、倉田家と決別して、連絡が途絶えていました。俊介からの突然の知らせに驚く2人には、それぞれ俊介と過去にわだかまりを持っていました。一方、東京へ出た雄司はテレビの製作会社のディレクターになり、別の事件の取材でカシオペアの丘で2人と出会います。同じ郷里から出発し、それぞれの別の人生を歩んで
いた4人が俊介の病で再びカシオペアの丘に終結します。そこには歳を重ね、さまざまな感情を抱え、生きてきた人間の葛藤と、病気や事故、事件によって傷ついた人間の再生する姿が感動的に描かれています。
 とくに俊介が息子の哲生に、ガンであることを告げる場面は涙なくして読めません。北の壮大な大地のなかで、一組の親子が交わす命の会話。命の尊さと親子の愛情にこみ上げるものがありました。重松清の巧みな構成と語り口で最高の場面となっています。
 重松清がこれまでの小説で扱った親子、夫婦、家族、友情といったテーマを、すべて盛り込んだ集大成。命が軽くなっている現代に「生と死」を真摯に問いかけた最高傑作。私はまたしても重松清の小説で泣かされました。決して泣き虫ではありませんけど。

「カシオペアの丘で」上下 講談社文庫

 朝日新聞の連載から注目していた桐野夏生の新刊「メタボラ」が単行本になりました。「魂萌え」(毎日新聞社)以来2年ぶりの長編小説で、約600ページというボリームは読み応え十分。ハイビスカスの花の装丁が強烈に南国のイメージを想起させます。 タイトルの「メタボラ」は昨年あたりからよく耳にするようになったメタボリック症候群でもお馴染みのメタボリズムからの造語で、そもそもは生物学用語で新陳代謝の意味。 
 桐野夏生作品は、毎回、社会問題や事件を作品に盛り込む特徴がありますが、新刊では、ニートや請負労働者など下流社会を漂流する若者が自分探しの果てで、メタボラ(新陳代謝)していく物語になっています。
  この小説は冒頭からいきなり惹きつけられました。「必死に逃げていた。ひたすら走って、この場を去ってしまいたいが、僕は今、深い森の中にいて逃げることはおろか、走ることさえできないのだった。しかも漆黒の闇だ。・・・悪夢だったら早く覚めてくれ」
 記憶をなくした青年がいきなり暗闇の森をさまよう場面から始まります。気がつくと自分の存在が誰なのか、一体どこなのか何もわからなりません。この書き出し部分がそのあとに続く物語の主題でもあり、現代の若者が道に迷って途方にくれているさまを見事に映し出していると思います。
 その森の中で、青年は学校を中退し、現実の生活から逃げ回るジェイクこと伊良部昭光に出会います。記憶喪失の青年と現実逃避する昭光という2人の若者を軸に、物語は暗く重い衝撃の展開に向かっていきます。
 彼らははじめ職もお金もないため、ひたすら他人に寄生します。コンビ二でバイトしていた女の家だったり、ボランティアで働いたり。やがて記憶喪失の青年は職を見つけ、いろんな人と出会い、徐々に過去の記憶を取り戻していきます。一方、昭光は育ちが裕福ですが、何をやっても、常に問題を起こし長く続きしません。記憶の再生を求めて、手探りしながら生きる青年と徐々に堕落する昭光の運命が複雑に交わり、やがて、それぞれ自分探しの旅に出ることになります。
 とにかく読んでいて、何度も苦しくなりました。青年の過去の記憶が非常に暗過ぎますし、記憶を取り戻すことで心の闇がどんどん深くなっていきます。破壊的で、退廃的な昭光の生き難さは、負の感情に支配され、引き裂かれる思いがしました。各地を転々としながら、自分の居場所を求める2人の若者。運命の悲惨さゆえ、若さゆえに犯す過ち。パッピーエンド小説が増えるなかで、若者の苦悩する姿を真正面から捉えた今年ベスト級の傑作だと思います。

 
メタボラ上下 朝日文庫

 新刊が出版されると必ずキャッチコピーがついてきます。作家本人が考える場合も稀にありますが、大概は専属のコピーライターや編集者が考えています。主に帯のフレーズや宣伝用のPOPに使われます。例えばよく目にするのが「最高傑作」「新境地」「号泣必至」など。とにかく毎日200点近い新刊が出版されるため、埋もれないように各社それぞれ工夫を凝らして販売促進を行っています。奇抜な表紙のデザインで目立たせる方法もありますが、やはり本ですから作家や中身を紹介するコピーが一番の効果があります。奥田英郎の新刊「家日和」にもよく使われる「今年のオンリーワン」いうコピーがあります。今年はこの1冊しか書きませんということですが、人気作家にしか使えない殺し文句といえます。
 直木賞作家の奥田英朗は「邪悪」といったミステリー小説から、代表作の「空中ブランコ」「インザプール」「町長選挙」といった伊良部医師が登場するコメディ小説まで、新刊が出るたびに変幻自在な才能を示して読者を驚かせてくれる作家の一人です。 
 新刊「家日和」は6つの短編集となっています。30代後半から40台前半の6組の夫婦小説と言い換えることもできます。子供がいなかったり、いたりしますが、このストーリーの中心には据えられてはいません。子育てがひと段落して、本来の自分自身を取り戻す夫や妻の姿を、奥田氏得意のキャラクター造形と心理描写で楽しませてくれます。女性心理を描いて絶賛された爽快オフィス小説「ガール」のように、今回も登場する6人の妻たちが大変魅力にあふれ、存在が際立っています。
 「サニーディ」では42歳の主婦山本紀子はあるきっかけからネットオークションをはじめます。予想よりも高値で売れる快感と得た小遣いで食事にエステに贅沢三昧。やがてネットオークション依存症となり、夫のビンテージギターやオーディオにまで手をだしてしまいます。また「ここが青山」では夫の会社が倒産して、再び働きにでることになる妻・湯村厚子。夫は再就職先を探さず、炊事洗濯育児。これまでとはまったく生活が逆転してしまうのだが、これがお互いにまたしっくりくるところが妙に笑ってしまいます。「グレープフルーツモンスター」にいたっては宛先パソコン入力の内職をする39歳の主婦佐藤弘子が、若い担当者に抱く中年の妄想はまさに奥田ワールドの真骨頂といえます。 奥田氏本人のことではないかと思ってしまう「妻と玄米御飯」に登場する42歳の小説家の大塚康夫。最近、有名な文学賞を受賞し、生活が少しづつよくなり、ヨガ、ロハスにはまりセレブ化する妻。それに付き合わされて一向に進まない原稿書き。そこで皮肉にもそんなロハスにはまる妻を題材に小説を書きはじめることになります。それぞれの妻たちの生きる強さと同時にしたたかさやしぶとさが読みとれます。現代の夫婦間に起こる様々な問題を6組の夫婦を通じてコミカルに描いた作品。独身が読んでも充分楽しめますし、ぜひとも夫婦で読んでもらいたい1冊です。

  
「家日和」 集英社文庫

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